『橋の上のワルツ』の舞台

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『橋の上のワルツ』の舞台


パットニーブリッジ@wilimediacommons

タイトルにある「橋」は、ロンドンにあるパットニー・ブリッジのこと。

ロンドンは、テムズ川というゆったりした大きな川が真ん中を通っており、観光名所もテムズ川沿いに多くあります。『橋の上のワルツ』の舞台になっているパットニーブリッジは、ここにあります。

2022年9月にエリザベス2世陛下が崩御なさって大きなニュースになりましたね。国葬のあったウェストミンスター寺院やバッキンガム宮殿といった中心地から、テムズ川に沿って西へしばらく行ったところに、パットニーブリッジがあります。

そこへ行く道は、超高級デパートであるハロッズがある、ナイツブリッジという、日本で言えば銀座のようなところを抜けていきます。ナイツブリッジを超えてさらに西へすすみ、テムズ川を渡ったところがパットニーなのですが、私(三輪えり花 )がロンドンに住んでいた頃は、パットニー自体はなかなか良い地域でも、その間にあるバタシーやフラムという地区は、実は、あまり治安がよろしくなく、住むのはやめた方がいいとアドバイスされたこともあります。ことにテムズを南へ渡る地域は要注意である、と。

実際、歴史的にもテムズの北岸は政治や経済の中心でしたから、北にはそれらを司る「偉い人たち」が住んでいましたが、南岸には社会の下層の人たちが住んでいたのです。たとえば、シェイクスピアの時代(500年近く前)にも、南岸はかなり雑多で、泥棒だの娼婦だの、自慢しにくい職業の人たちが住んでいて、なにが起きてもおかしくない危険な地帯でした。その流れは20世紀が終わる頃まで続いていたのです。

ごぞんじのとおり、英国は、大英帝国時代に世界中に植民地を持っていました、それらの国々からの移民ももちろん昔から住んでいます。彼らの多くは19世紀までは貴族の召使や肉体労働者・低所得労働者として働き、いわゆる「イギリス人」とはあまり交流せずに自分たちのコミュニティの中に閉じこもるのが普通でした。が、21世紀に入り、人種は平等という意識も広まり、彼らがプライドと意思を持ってイギリスに住むようになってきたと、私は感じています。

また、ロンドンオリンピックが2012年に開催されることが決まった頃から、さらに状況が変わり始めました。都市開発や再開発が進み、仕事をしたい人たちや、ITや石油で儲けた人たちなどが大勢住み始め、「貧困ではない人たち」がロンドンの居住地域をどんどん拡げていったのです。パットニーはなかでも飛び抜けて、健全でおしゃれな住みやすい地区となりました。

『橋の上のワルツ』がパットニーブリッジを舞台に選んだのは、まさにここがポイントです。登場するキャラクターたちは、アフリカ系移民とアイルランド移民とIT長者です。橋の南に住んでいるであろう移民たちと、橋の北に住んでいるであろう拝金主義の成り上がりが中間地点である橋の上で、ある事件に巻き込まれるわけです。とくにアイルランドから来た女性については、その背景をもう少し深くお話ししたいのですが、それはまたいつか。

この記事は、いかがでしたか?お芝居の舞台と背景が少し見えてきたでしょうか?さてさて、この3人が巻き込まれる事件とは・・・。

written by 三輪えり花(英語圏部会 副部会長&運営委員長。演出家・俳優・翻訳家)


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